あなたにも見えますか

この世界の

成れの果て・・・・・。







このの名のも

あの奇妙な雰囲気の町長宅での夕食のあと、レイは明け方まで、只ひたすらに考え事をしていた。 パン屋のおかみさんが言っていた 「太陽の神の怒り」 や、昨日の町長が言っていたワインの話。 何か引っかかるな。 何だ? この町には、何かある気がする・・・・。 だてに何年も旅をしてきたわけではない。 レイはこの町の、他とは違う独特の感覚に気づいていた。 今までにも、神話や昔話を信仰したり、根拠のない掟や言い伝えを必死になって守っている町や村は幾つもあった。 今までとは違う、苦笑いでは済ませられないような感覚に、レイは少し怯み、そして好奇心をくすぐられていた。 「レイさん?朝食の時間ですけど・・・どうなさいますか?」 「あ、すいません。  僕は朝食は取らない方なので・・・・」 「そうですか。  でも、今日は暑くなりそうです。  少しでも栄養を摂っておいた方がよろしいのでは?」 ・・・・しつこいな。 何かあるのか? 此処で罠にはまってみるのも一興かな。 「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて」 ドアを開けると、そこにはレスかがやんわりと微笑んでいた。 「良く眠れました?  夕べはずいぶん蒸しましたね」 「ええ、おかげさまでよく眠れました。  暑かったですけど」 二人の笑顔は朝日に反射し、怪しげに輝いていた。 「おはようございます、レイさん。  昨夜はよく眠れましたかな」 「ええ、おかげさまで」 「お義父さま、先ほども私と同じ会話をしましたのよ」 「そうでしたか、それは失礼。  おぉ、さあ座って下さい。早速朝食にしましょう」 その日の朝食は、食器がこすれる音しか聞こえなかった。 腹の探り合いだな。 まったく、なんて息苦しい。 とても客人を持て成すような雰囲気じゃないだろ。 まあもっともそこまで期待はしてなかったけど。 さて、今日はどうするか・・・。 レイは、あの金物屋に顔を出した。 此処の主人だけは、レイに嘘を言わないような気がしたのだ。 「あの・・・少し、お訊きしたいことがあるんですけど・・」 「なんだい」 「この町に、子供って居ないんですか?」 「・・・・・・。・・どうしてそんなこと訊くんだい」 「いえ・・この町に入ったときから思ってたんです。  僕が今まで訪ねた町や村は、僕が道を歩けば子供が物珍しそうに付いてくる。  朝になれば鳥の声と子供の声で目が覚める。  そんな所ばっかりでした。  でも、この町は違う。  子供の姿、それどころか声すらも聞こえないんです」 レイが、カウンター越しに主人に詰め寄った。 主人は気にも留めない様子で、読んでいる新聞から目を離そうとしない。 「で?」 「原因は、いくつか挙げられます。  一つは此処十数年、子供が生まれていない、または結婚した夫婦がいない。  二つめは何らかの仕来りで丁度僕が来た時期は子供が外に出られない。  三つ目は何らかの理由で外部の者との接触を避けるため、子供を外に出さない。  四つ目は此処ではない、どこか別の場所に子供が集められている。  どれも仮説に過ぎませんが」 「・・・・・・・」 相変わらず主人は新聞から目を離さないが、レイは真っ直ぐに主人の目を見つめていた。 「僕としては、四つめの仮説が一番有力だと思っています。  一つめの仮説は、まずあり得ないんです。  僕が見たところ、この町には20代30代の、丁度結婚する年頃の若者はたくさん居ます。  十数年前に結婚したのであろう40代前後の夫婦も。  その現状にもかかわらず、子供が居ないだなんて、あり得ないんですよ、生物学的に」 「それで」 「二つめですが。  僕はこの二日間、色々な方とお話しました。  そのなかで一度も、子供の話が出てこなかった。  もしも何かの事情や仕来りで子供を外に出せないのなら、その旨が誰かの口から僕に伝わっても良いはずです。  僕は、初めてこの町に足を踏み入れたとき、たくさんの方々に歓迎して頂きました。  それなのに、誰も子供が外に出られない旨を言わないなんてあるでしょうか」 レイは段々と饒舌に、早口になっていった。 主人は未だ、顔を上げようとしない。 「三つ目の仮説。  今までの村や町でも、外部の者との接触を避ける動きは見られました。  ですが、子供は好奇心が旺盛です。  その場合でも窓や建物の陰から、子供の顔は見受けられました」 「四つ目は」 「はい。四つ目は、仮説は仮説でも、少し確信があるんです。  昨晩、町長さんが仰っていました。  "ワインを造るために必要なもの。一つは葡萄。もう一つは・・酒におぼれた子供たちの涙"。  普通は、こんな言い回しはしませんよね。  ましてや、あの町長さんです。  自分の品位を貶めるような冗談を言うでしょうか。  でも、もしもこれが冗談なんかじゃなく、事実だとしたら?  この町の子供たちがどこかに集められ、ワインを造るために働いているとしたら?  辻褄が合うんです」 「・・・・・・・。」 「・・・・・・・。」 暫くの間、沈黙が続いた。 主人は新聞から目を離さず、レイは主人の目を見つめたまま。 店内には、二人の呼吸音と新聞紙のこすれる音しか聞こえない。
「火事だ、オスカーの店が燃えてるぞ!!!」
瞬間、叫び声が沈黙を切り裂いた。 外に飛び出した二人が目にしたものは、5件先の店がごうごうと燃えている情景。 火がついたのは、一昨日レイが世話になったパン屋だった。 燃え上がる火を前にして、町民達が必死で消火活動をしている。 その横で、呆然と立ちつくすオスカー夫婦の影が、小さく見えた。 「ありゃあ、もう間にあわねぇな。どれだけ水をかけても無駄だよ。  店が燃え尽きて、火が自然に消えるまで俺らが出来ることなんてない」 「・・・水・・・・。・・違う、水じゃだめなんだ!水じゃあの火は消せない!!」 レイは金物屋の脇にあった、冬の滑り止め用の砂を持って、パン屋まで走った。 「すいません、この砂借ります!」 「え、おい、旅人さん!?」 滑り止め用の砂を持って突然現れたレイに、町民達は何事かという視線を投げた。 「あ・・・あのっ、多分この火は、水じゃ消えません。  砂・・っ、砂を使ってみて下さい!」 「旅人さん?どういうことだい、そりゃ。  "火には水"、定石だろう?」 「確かに・・普通の火なら、其れで消えるんです。  でも、この火の勢いは・・・恐らく油かガソリン、灯油なんかを火種に付けられた、人為的な火です。  それらものには、水じゃ太刀打ち出来ません。  特殊な薬剤入りの水か、砂でないと・・・」 レイの説明を、町民達は理解出来ていないようだった。 「じゃあ・・じゃあ旅人さん、あんたは誰かがわざとこの火をこの店に点けたっていうのかい!?」 「火を点けた犯人がこの町に居ると!!?」 「そんなことより、今は消火が先です!!早く砂を!土でも良いです!!」 30分後、オスカーの店は全焼したものの、周りの店に燃え移ることも無く、被害は最小限で止まった。 「店が・・・私たちの店が燃えてしまった・・・・。  どうしたら良いの、もう生きていけない・・・」 「おかみさん・・・・」 店が全焼し、生きていく術を無くした二人っきりの夫婦にかける言葉を、その場に居た人々は知らなかった。 翌日、オスカー夫婦は町を去っていった。 店を無くし、職を無くし、全財産を無くした彼らに、この町での居場所は無かった。 「そうですか・・・・隣町の親戚の所に」 「ああ。それでもまだ、身寄りがあるだけマシさ」 「・・・どういうことですか?」 「この町で職を失えば、生きていく術は無い。  税金も払えないから土地やなんかも取り上げられる。  どこか別の場所に身寄りが有る奴らは、そこに移れば生きていけるんだよ。  少なくとも此処で暮らすよりはマシな暮らしが出来る」 金物屋の主人は、品物のナイフや包丁を研ぎながら話を進める。 「・・・昨日の話だがな」 「はい」 「あんたの仮説は当たってるよ。  確か四つ目のやつだったな、子供たちが別の場所に集められてるっていうの」 「・・・本当ですか・・!!?」 「ああ、教えてやろうか、場所」 「是非・・・!!!」 金物屋の主人から話を聞きいた後、レイは町の図書館で夜まで調べ物をしていた。 「なるほど、太陽の神の怒り・・・か。  謎が解けたな、これで・・・!!!」 レイが町に入ってから五日目。 町民が1人、町から消えた。 「・・・今までも、こんなことがあったんですか?」 「・・・・3年に一度くらいの割合でな。  酷いときは一日に3人居なくなったことがある」 「三人!!?どうしてそんなに・・」 「"太陽の神の怒り"だよ。日の出前に目を覚ますと太陽の神の怒りに触れて、生け贄にされてしまう」 「・・・生け贄・・・ですか」 レイの頭の中に、何かが引っかかった。 前に立ち寄った村での、奇怪な言い伝え。 その言い伝えと、この村での言い伝え。 その二つがリンクしている可能性を、レイは未だ見いだせずにいた。 暫くの沈黙の後、金物屋の扉が開いた。 「ああ、いらっしゃい」 「大将、この包丁頼むよ」 「あいよ」 「聞いたかい、また消えたってよ」 「ああ・・ケリーのとこの旦那だろ」 主人の言葉に、客は驚いたように続けた。 「いやいや、ヤンのとこの娘だよ」 「「え!?」」 「あんたら・・・知らなかったのかい」 なんなんだ、一体・・・? この町はどうなってるんだ。 誰が何を企んでるんだ・・・・!!! 一体、何の為に・・・・。 next
この回だけで三日くらい時が進みましたね。 まあその分だいぶ話も進みましたけど。 本当は二回か三回くらいに分けて考えてたはずなんですけど・・・あれ? 次回は、この町の真相に一気に近づいていこうと思います。 2006.7.27 侑佐 亜未