今始まる。

世界を回す

僕の旅・・・・。







このの名のも

「やあ、初めまして。この町の町長のフランツ・ニーグルです。  ようこそお越し下さいました」 「初めまして、レイ・ウェルターといいます。お招き有難うございます」 レイは、町長の作りもの的な笑みに流されていた。 町長の顔に広がるそれが、作り物なのか本物なのか、今の時点では区別はつかない。 「いやはや、お若いのに礼儀の正しい方だ・・・。さぞ良いお家柄なのでしょうなあ。  お腹が空いてらっしゃるでしょう。レスカ、旅人さんに早く料理を。そうだ、旅人さんも一杯いかがです」 並べ立てられる料理と話題に、レイは少しづつ付いてゆけなくなっていた。 「・・あ、有難うございます。いただきます」 「ささ、どうぞ。これはこの地方で採れた葡萄を使ったワインでしてね。  私はこれまで色々なワインを飲んできましたがやはり地元で採れたこのワインが一番美味しいんですよ」 「え、ワイン、なんですか?これ・・・・」 町長が「ワイン」と称したそれは、ワインというには少し色が薄すぎた。 それはまるで、蓮の花を搾ったかのように淡く、美しい桃色。 レイのよく知る「ワイン」とは、似て異なるものだった。 それでも確かに、グラスからは強いアルコール臭が漂ってくる。 「おや、旅人さんはアルコールはダメですか」 「え、ええ・・。僕の育った所では、20歳以下はお酒を飲んではいけない決まりでして。  未だに飲めないんですよ、僕」 「ほう、そんな法律が。旅人さんは何処のお生まれで」 町長にとってはレイの言った法律がとても珍しいようだった。 「このあたりでは、そんな法律は無いんですか?」 「有りませんとも・・。そんなものを作ってしまったらワインが造れなくなりますからね」 「と・・言いますと・・?」 「ええ。このワインの原料は、葡萄と、あともう一つ。隠し味があるんですよ。  何かお分かりになりますかな」 酒の飲めないレイにとって、その問題はあまりに難しすぎた。 答えが出せないまま、少しづつ時間が過ぎてゆく。 町長はまるでその空白の時間を楽しむかのように、ワインを口に含んでいた。 「・・・・すみません、分からないです」 「では正解をお教えしましょう・・。このワインを造るために必要なもの。  一つは葡萄。もう一つは・・酒におぼれた子供たちの涙です」 レイは町長の言葉が飲み込めないまま、口を開いた。 「ええと・・・・・それは・・?」 「ははは、どうやら旅人さんは人が良すぎるらしい!冗談ですよ、冗談。  まさかそんなものでワインが美味しくなるわけが無いじゃないですか」 「そっ、そうですよね。酷いですよ、町長さん本気で信じかけちゃいました」 レイは引きつった笑顔を浮かべた。 何処までが冗談で、何処からが本気なのかがさっぱり分からない。 冗談にしては、目がやけに据わっていたような気がするけど・・・。 僕の気のせいか? いや、だとしてもなんでそんな・・己の品位を貶めるような嘘を言わなければならない? この人ならもっと巧い冗談が言えるはずだ・・。 「あの・・私のお料理、お口に合いませんでしたか?」 「え?あ、いえ、そんなことは決して・・・。すみません、考え事をしていたものですから」 「そうでしたか。どうぞ、召し上がってください。あんなパン屋の質素な夕飯ではさぞお辛かったでしょう」 レスカのその言葉に、レイは過剰なまでの反応を表した。 「っそれは違います!あのパン屋さんの夕食や朝食は確かに質素だったけど・・・でも!  温度とは違う温かさがあった!」 「旅人さん・・・?」 「どうなさいましたの、突然・・・。私なにか御気に障る様なことでも言いましたか?」 「あ・・・すいません、突然取り乱したりして・・」 この人たちには、分からないのか・・。 「そういえば、旅人さん、御国はどちらで?とても珍しい洋服をきてらっしゃる」 「・・は?」 町長の突然の質問に、レイは言葉に詰まった。 レイは今さっきの険悪なムードをものともしないその神経の太さに完敗していた。 「あー・・・いえ・・。これは、別に民族衣装とか、そういうんじゃ無いんですけど。  僕が所属してる組織のものでして。まあ、礼服みたいなものです」 呆気にとられながらもレイは町長の質問に律儀に答えた。 「実は、よく訊かれるんです。よほど皆さんにとっては珍しいようですね」 「ええ。その服は勿論、髪の色も」 町長のその言葉を聞いた途端、レイの脳裏に何かが引っかかった。 だがその疑問も、直ぐに重苦しい記憶に押しつぶされていった。 それは、町長親子の新しい標的でもあったのだ。 「まあ、旅人さん、お顔の色が悪いですわ。きっとまだ疲れが残っているんじゃありません?  お部屋でお休みになられたほうが・・・・」 「え、あ・・・じゃあ、すみません。お言葉に甘えてお先に失礼します。  おやすみなさい。あの・・あまり食べられなくてすみません、ご馳走様でした」 兎に角、このおかしな状況から一刻も早く抜け出したかった。 この胸の中の息苦しさから、開放されたかった。 レイの服装は、この時季この地では、滅多に見かけないものだった。 黒を基調としたコート。 そのコートには紅いペンタクルと十字架が刻まれている。 その十字架の中心には黒く大きく「R」の文字。 レイの髪は敢えて言葉にするならば、 「白に近い黒っぽい灰色のような銀」という微妙で複雑な色合い。 光の加減で、黒にも白にも、灰色にも銀にも見える。 黒いコートに映えるそれは、まるで天使の髪のようであった。 神に愛され、命を受けてこの世に生まれてきたのだろうかと思わせるような、美しい色だった。 その美しい色合いの髪は、道行く人の目を奪う。 その視線は羨望の眼差しであり、好奇心の眼差しであり、奇怪なものを見る眼差しでもあった。 そのため、レイは普段から寝るとき意外は大体髪を隠すようにして帽子やフードをかぶっている。 レイは男とも女ともつかない、非常に中性的な顔立ちをしていた。 髪の長さも肩につくかつかないかくらいの長さ。 それが、ただでさえ中性的なレイの雰囲気をさらに煽っていた。 「お義父さま・・・そろそろですわね」 「ああ・・・・。もう少しで、あの非常に稀な能力が手に入る・・・。  そうすれば、この世は全て私のものだ・・・」 「町の人間は、どうしますか?お義父さまがあの能力を手にすれば、皆ただの役立たずでしょう」 「・・そうだな・・・・・」 レスカの言葉に、フランツは闇の中で妖しく笑った。

「焼き払え」

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後書 町長と義娘の隠された事実。 ぽつりぽつりと消え始める町民たちの行方。 レイの本当の姿とは・・・・・? 次回こそ、これらの謎に迫っていきます。 2006.2.24 侑佐 亜未