巡っていく この時は

僕の胸に

どんな想いを残していくのだろうか







このの名のも

「しかし・・・良かったのかい、旅人さん」 「ふぁふぃ?ふぁいふぁふぇふ?(はい?何がです?)」 「ああ、良いから、飲み込んでから喋ってくれ」 万引き犯を本当に捕まえたお礼として、レイはパン屋の店長宅で夕飯をご馳走になっていた。 レイは「食べ物くらいは何とかなる」と断ったのだが、おかみさんが予想以上の頑固者だった。 レイにご馳走を振舞うと言って聞かなかったのだ。 「失礼しました・・・。つい、詰め込みすぎちゃって。何せ久しぶりのまともな夕食なもので」 「そうか・・・腹いっぱい食ってけ。・・で、だな、さっきの話のつづきだがな?」 「はい?」 「良かったのか、町長の誘いを断ってまでウチに泊まってよ。後悔はしてねえのかい」 レイは一瞬、何の話だか飲み込めないでいた。 暫らく押し黙った後、思い出したようにレイは笑った。 「ああ、そのことですか。ええ、良いんです。別に。僕は無駄に豪華な部屋とかベッドってのが苦手なんですよ。だから、良いんです」 「・・・そうか・・。しかしな・・今の町長は我が儘な面が有るからなあ。逆恨みとかされないように精々気をつけろよ、旅人さん」 「あの・・・・小父さん、僕の名前、覚えてます?」 「・・・は?」 「いや、なんだかずっと"旅人さん"としか言われてないので・・」 「あ、ああ。すまんな・・。ええっと・・レイ・・だっけか」 やっと呼ばれた自分の名に、レイは勢いよく微笑んだ。 「さてさてあの旅人、私の誘いを断ってまでパン屋に宿を置くとは、一体どういう了見なのかねえ・・・」 「さあ・・・・・私には分かりませんわ、お父様。私は旅などしたこと有りませんし」 「そうだったね、レスカ。これは失礼なことをしたようだ・・・機嫌を損ねたかい?」 「いいえ、お父様。レスカはお父様の御人形ですもの、機嫌を損ねたりなどしませんわ」 レスカは義父の腕の中で、ひっそりと笑った。 まるで、これから起こる出来事を予見しているかのように・・。 「レイさーーん!!もう朝よー起きなくて大丈夫ー?」 日の出から3時間ほどしてから、おかみさんが階下からレイを呼ぶ声が聞こえた。 レイはいつも、日の出の1時間前に目を覚ます。 夏でも、冬でも、そのタイミングは決して変化することは無い。 「っはーい!!今行きますー」 おかみさんに負けないくらいの大声で、レイは返事を返した。 読んでいた本に栞を挿み、階段を降りる。 「あら、随分と早くから起きてたみたいね。何時に目を覚ましたの?」 「ええっと・・・・4時間くらい前、ですかね?僕日の出の1時間前には目が覚めちゃうんですよ」 レイの言葉に、おかみさんは少し驚いたようだった。 そんなおかみさんの表情の変化を、レイは見逃さなかった。 「・・・そんなに珍しいですか?僕の習慣・・・」 「え?あ、いえ、この町じゃあね、日の出前に目を覚ました者は太陽の神の怒りをかって、溶けてなくなってしまうという言い伝えがあってね。  だから、レイさんが無事だったから・・・あれかしらね、旅人さんは別なのかしらねえ?」 「・・そうかもしれませんね」 誤魔化すように引きつった笑いを浮かべたおかみさんに合わせて、レイも微笑んだ。 太陽の神の怒り・・・・? なんだ、それ。 なんだか妙な言い伝えだな。 ・・・・・ちょっと、調べてみようか・・。 朝食を食べ終わった後、レイは必要品を買い足すのに町へ出た。 そこで待っていたのは、町民たちの盛大な歓迎だった。 どうやらあの強者万引き犯を捕まえたことで、英雄として扱われているようだった。 「あの・・・これもらえますか」 足を踏み入れた金物屋の店主は、唯一レイを英雄として扱わない人間だった。 「はいよ・・・。旅人さん、吃驚しただろ」 「え?え、ええ・・・・。この町の方は、旅人が来るといつもこうなんですか?」 「いや?"英雄"が生まれたときだけさ」 「生まれる・・・?」 少し妙な言葉の言い回しに、レイは軽く眉根を寄せた。 「ああ。町民のためになるようなことをしてくれた人に捧げられる称号だよ。・・・ま、後2日もすれば、旅人さんに戻るよ」 店主の言葉は、レイの疑問の答えにはなっていなかった。 つくづく不思議な町だ・・・。 町民がこんなにも質素な暮らしをしているというのに、何故町長の家だけあそこまで立派なんだ・・・? 第一、この町の人はどうやって生活を・・・・。 レイは店の窓から外の風景を眺めた。 町の人たちにこれといって不思議な雰囲気は無い。 「あの・・・つかぬ事を伺いますがー・・」 「ん?」 「あの・・・この町の方たちはその・・どうやって生活を?」 「・・・・そりゃあ、至って"普通"に生活してるよ。それがどうかしたのかい」 「あ、いえ・・・・別に、何でもないです。すみません、変なことを訊いちゃって」 「良いけどよ、別に」 「じゃあ、僕はまだ買い物があるので、失礼します」 「ああ、道中気をつけてな」 「ありがとうございました」 "普通"の生活か・・・。 どこか山奥で野菜でも栽培してんのかな・・。 でも、まるっきり自給自足の生活だよな、それだと。 この辺りに他の町は見当たらなかったし・・・・・。 「たっびびっとさん♪」 「・・え?」 後ろから声をかけられ、振り向いた瞬間目の前が真っ暗になった。 「う・・・」 ここは・・・・? 僕はどうしたんだっけ・・。 ああ、町で誰かに後ろから・・・・・。 ・・・何なんだ一体・・・。 僕を襲ったって何もいいことなんんて無いだろうに・・・。 「あら、お気がつかれましたか?お体の具合はいかがです」 「え・・・えっと、あの・・僕は一体・・・」 ベッドから身体を起こすと、其処は豪華な客間のようだった。 窓から見える店の様子を見ると、恐らくは町長邸なのだろう。 声をかけてきたのは精々見た目16、7歳程度の少女。 「あら、覚えてらっしゃらないんですの?旅人さん、町で倒れられたんですのよ。きっと疲れが溜まっていたんでしょう。  ゆっくりお休みになってくださいね」 「はあ・・・・。あの・・貴女は・・?」 「私はレスカ。レスカ・ニーグルと申します。よろしくお願いしますね、レイ・ウェルターさん」 「ど、どうも。で、此処は一体どちらで?」 レイは少し試すような口調で言った。 此処が何処かなど、訊かなくても重々承知している。 が、何のために自分をわざわざ気絶させてまで連れてきたのか、事の真相を確かめたかった。 「此処は町長である義父の家ですわ。義父が今夜は是非、旅人さんをお持て成ししたいと、張り切っていました」 「はあ・・・」 「ほら、昨夜は旅人さん、ご都合が合わなかったようですし」 そういって微笑んだレスカの表情は、やわらかい中にも何処か不穏な空気を漂わせていた。 「あの・・・大変申し訳ないのですが・・僕、荷物やら何やら、全部パン屋さんに置いてきちゃってますし・・。  今夜も泊めていただく約束ですので、折角ですが・・・・」 「まあ、その件に関しては旅人さんのご心配には及びませんわ。パン屋の店主の方には既にお話しておきましたから」 「そう・・ですか。じゃあ、お言葉に甘えて・・・・」 「ええ。義父も私どもも、精一杯お持て成しさせていただきますわ」 やけに準備がいいな。 今夜の夕食は、お腹いっぱいは食べられなさそうだ・・。 折角のご馳走なのに・・・。 僕って結構不幸だよなあ・・・・・。 「ハァ・・・」 「どうしました?」 「あ、いえ・・何でもないです」 「?」 まさかレスカに自分の胸の内を話すわけにはいかない。 レイは強張った頬の筋肉をほぐすように、無理やり笑顔を浮かべた。 next
後書 まだまだ序章。 次くらいから、ちょっとづつ。 これから先、レイの行方は。 レイの実態とは。 町長親子の真の狙いとは。 この町の実態とは。 たくさんの謎に、迫っていきます。 2006.2.22 侑佐 亜未